季節の移り変わりを着物で楽しむことは、日本の豊かな文化のひとつです。
古くから伝わる「衣替え」は、単に服を変えるだけでなく、その季節ならではの素材や色合いを楽しむための知恵でもあります。
この記事では、秋の着物衣替えの基本を軸に、気温やシーンに合わせた実践的なポイントをご紹介します。
🔶衣替えの基本ルールと現代の考え方
着物の衣替えは、古くは宮中の行事に由来するもので、季節の節目ごとに装いを変える大切な習慣でした。
現代では、9月は裏地のない「単衣(ひとえ)」、そして**10月からは裏地のついた「袷(あわせ)」**を着るのが一般的です。
しかし、近年は温暖化の影響もあり、残暑が長引くことも珍しくありません。
暦どおりに厳格に考えるのではなく、その日の気温や体調に合わせて柔軟に装いを選ぶことが大切です。
着物の仕立て(単衣・袷)、素材(生地の厚みや風合い)、
そして色合いの3つの要素を上手に組み合わせることで、無理なく快適な着こなしが楽しめます。
🔶単衣から袷への切り替え:3つの目安
切り替えのタイミングは、住んでいる地域やその日の天候によって変わります。
以下の3つの要素を参考に、自分にとって心地よい装いを見つけましょう。
🔸1. 気温をチェックする
あくまで目安ですが、気温は着物選びの重要なヒントになります。
最高気温25℃以上: まだ単衣が快適な時期です。
20〜24℃: 単衣でも袷でも着られる期間です。行き先の雰囲気や滞在する場所の空調なども考慮して選びましょう。
19℃以下: 袷が安心です。特に風の強い日や朝晩は体感温度が下がるため、より暖かさを意識しましょう。
🔸2. 暦と地域差を考慮する
基本は「9月は単衣、10月は袷」ですが、都市部の残暑や、
北海道など寒い地域の冷え込みなど、住む場所の気候に合わせて調整することが大切です。
朝夕の冷え込みや、風の強さを肌で感じたら、そろそろ袷の出番かもしれません。
🔸3. 礼装の場合の注意点
結婚式などの改まった席では、暦を優先するのが無難です。
10月以降の式典では基本的に袷を選びます。
ただし、記録的な暑さが予想される場合は、単衣でも失礼にあたらないケースもあります。
帯や小物で格を整え、体調を優先した選択をすることも、大切なマナーのひとつです。
🔶実践!秋の着物コーディネート術
着物をより快適に楽しむためには、着物そのものだけでなく、小物やインナーでの調整が鍵になります。
●素材と仕立てで季節感を演出
単衣を着る9月後半は、紬や縮緬など、やや厚みのある素材で季節感を深めると素敵です。
10月に入って袷を着る場合は、軽めの胴裏(どううら)や滑りの良い長襦袢を選ぶと、重さを感じず快適です。
足袋は薄手から標準的なものに、半衿も絽から艶を抑えたものに変えることで、全体の季節感がまとまります。
承知いたしました。先の回答内容を、衣替えの時期や着物の種類、小物別に表にまとめます。
時期 | 着物の種類 | 着こなしのポイント |
9月後半 | 単衣(ひとえ) | 紬や木綿など、少し地厚で風合いのある素材がおすすめです。見た目にも落ち着いた印象になり、秋の訪れを感じさせます。 |
10月以降 | 袷(あわせ) | 訪問着、小紋、など、裏地のある着物全般。胴裏や長襦袢を滑りの良いものにすることで、快適な着心地になります。 |
共通 | 小物 | 足袋を薄手から標準的な厚さのものに、半衿を絽から塩瀬や縮緬など艶のないものに替えると、全体の季節感がまとまります。 |



紬:節の表情が美しい紬に紅葉帯を合わせ、秋の庭にしっとり映えます。
小紋:華やかな更紗風の小紋で、街歩きも観劇も軽やかに楽しめます。
訪問着:上品な訪問着が、秋のお呼ばれや改まった席に気品を添えます。
●肌着と長襦袢で温度調整
汗をかきやすい日は、吸湿速乾性のあるインナーが重宝します。
袷を着る時期でも、長襦袢の素材を調整するだけで体感は大きく変わります。
麻や絹は通気性が高く、快適さを保ってくれます。
●羽織とショールを上手に活用
紅葉の頃からは、**羽織(ばおり)**が活躍します。
風が冷たい日には、大判のショールを合わせると、屋内外の移動や待ち時間も安心です。
11月に入ると、道行(みちゆき)やコートの出番も増えてきます。
着物の上から簡単に着脱できるアイテムを揃えておくと、気温の変化に柔軟に対応できます。
承知いたしました。「絵羽織」を除外して、羽織とコートの種類と用途を表にまとめます。
種類 | 特徴 | 用途 |
羽織 | 着物の上に着る短い上衣。洋服のジャケットやカーディガンのような役割で、室内で脱ぐ必要はありません。 | 普段着、おしゃれ着。紋付きは礼装・略礼装にも。 |
道行コート | 四角い衿が特徴の防寒着。 | 訪問着や留袖など、フォーマルな着物に。 |
道中着 | 広衿で胸元がすっきり見える防寒着。 | 留袖から小紋まで、幅広い着物に |



羽織:薄羽織でさっと体温調整。初秋のお出かけに軽やかな一枚。
ショール:屋内外の温度差も安心。襟元に季節感をプラス。
道行:しっとり防寒で晩秋も品よく。風の強い日のお出かけに最適。
●帯まわりで細やかなおしゃれを
帯揚げや帯締めは、秋の装いに欠かせない「微調整パーツ」です。
9月は軽やかな素材を、10月からはややマットな質感のものに切り替えることで、全体の雰囲気を秋らしく演出できます。
色も、鮮やかすぎるものより、くすんだトーンや中間色を選ぶと、落ち着いた奥行きのあるコーディネートになります。
●秋色の特徴
洗練されたくすみトーンが中心です。
ぬくもりがあり、ほんのり和の趣を感じさせます。
栗・柿・葡萄などの“秋の味覚”を思わせる色合いです。
秋は芸術や食を楽しめる季節で、紅葉の景色や京都の社寺を連想させる世界観とも相性がよいです。装いに取り入れると、自然に「和」の雰囲気を演出できます。

秋色のカラーチャート:くすみトーン、ぬくもり、秋の味覚を連想する色
帯揚げ・帯締めの色選びの目安にご活用ください。
🔶Q&A:着物の衣替えよくある疑問を解消
**Q1:10月でも暑い日は単衣を着ても大丈夫?**
A:はい、体感を優先して大丈夫です。改まった席では袷が基本ですが、暑い日は単衣+格のある帯・小物で品位を保ちます。主催側の指定がある場合はそれに従います。
**Q2:袷に替える決め手は何ですか?**
A:目安は最高気温19℃前後、朝晩の冷え、風の強さ、室内の空調です。外出の時間帯(昼/夜)も合わせて判断します。
**Q3:男性の秋の着物コーデのポイントは?**
A:藍、鼠(ねずみ)、茶などの濃淡で季節感を出すのがおすすめです。羽織紐や角帯に芥子色(からしいろ)や錆色(さびいろ)といった渋いアクセントを加えると、ぐっと秋らしい装いになります。
**Q4:羽織やショールはいつから使いますか?**
A:10月半ば〜薄羽織が活躍します。風がある日は大判ショールを重ねると安心です。11月は道行・コートも視野に入れます。
**Q5:9月のフォーマル(式典や前撮りなど)はどう選びますか?**
A:9月は単衣の礼装が目安です。暑さが残る場合は無理をせず、素材と小物で格を整えると安心です。開催側のドレスコードがあればそちらを優先します。
**Q6:薄物(絽・紗)は9月に着られますか?**
A:本来は夏物(6〜8月)までで、9月からは単衣に切り替えます。とはいえ近年は9月も暑い日が続きます。街着など日常の外出なら体感を優先し、
- 単衣に**通気のよい長襦袢(絽・麻・薄手絹)**を合わせる
- 半衿や足袋を涼感のある質感にする
…といった方法で無理なく調整します。
一方、改まった場や茶席では暦に従い単衣が基本。透け感が強い薄物や“夏柄”の帯は、9月は避けるのが無難です。
**Q7:長襦袢や肌着でどこを調整すると快適ですか?**
A:衿元・背中・腰回りの温度管理が鍵です。汗ばむ日は吸湿速乾インナー、単衣期は麻や絹の襦袢が快適です。袷期は滑りのよい襦袢+薄手の胴裏で軽さを保てます。
**Q8:足袋や半衿はいつから“秋仕様”にしますか?**
A:足袋は薄手→標準厚へ、半衿は光沢控えめの質感へ、10月ごろを目安に移行すると見た目が自然に整います。
**Q9:通年柄でも季節感は出せますか?**
A:出せます。無地・江戸小紋・縞などは、帯揚げ・帯締め・半衿の色と質感で秋らしさを添えると、端正にまとまります。
🔶まとめ
秋の着物の衣替えは、日本の風土と暮らしに根ざした知恵です。
単衣から袷への切り替えは「9月→10月」が通例ですが、現代の気候に合わせて気温や体感を優先することが大切です。
肌着や長襦袢、羽織やショールなどの小物で温度調整を行い、
体調と品位を両立させることが、美しい着こなしの鍵となります。
暦を基準としつつも、無理のない装いを楽しむことが、秋の着物ライフを豊かにします。
秋の着物衣替え「3つの心得」
- 暦を尊重しつつ、気温を最優先に。 無理のない着こなしで、快適さを第一に考えましょう。
- 小物と羽織で温度をコントロール。 肌着や長襦袢、そして羽織やショールで、細やかな調整が可能です。
- 美しさと快適さの両立を。 シーンにふさわしい装いを心がけつつ、体調を崩さないように工夫することが大切です。
この記事が、あなたの秋の着物ライフをより豊かにするヒントとなれば幸いです。
🔸コラム:Fumi’s Kimono Diary ✿
9月から10月にかけて、街の景色が少しずつ秋めいていくのを見るのが好きです。
ある年の衣替えの頃、私は単衣から袷へと切り替えたばかりで、袖を通した瞬間に“あ、布の重なりが心地いい”と感じました。
そのやわらかな重みが、まるで秋の空気に包まれているようで、季節がまた一歩進んだことを実感したのを覚えています。
気候の変化が読みにくい今だからこそ、自分の体調や気分に合わせて衣替えを工夫することが、着物と長く付き合う秘訣かもしれませんね。