日本の染織技術は、世界的にも高く評価されており、工芸品としての美しさと、
実用品としての機能性をあわせ持っています。
ここでは、着物の素材となる繊維や糸について、基礎からわかりやすく解説します。
🔶繊維と糸の基本

布は、繊維からつくられた「糸」を組み合わせてできています。
繊維とは、しなやかで細長く、長さが幅や直径の800倍以上あるものを指します。
この繊維を束ねて糸にし、それを織って布を作ります。
糸には2種類あります:
長繊維(フィラメント):生糸や合成繊維のように、長く連続した糸
短繊維(ステープル):綿や羊毛など、短い繊維を紡いでつくる糸
🔶繊維の種類と分類

天然繊維と化学繊維
繊維はその成り立ちにより、大きく次の2つに分類されます:
- 天然繊維:自然由来(動物・植物・鉱物)
- 化学繊維(人造繊維):化学的に合成・加工されたもの
天然繊維の種類
●動物繊維
素材 | 例 |
---|---|
絹 | 家蚕(養蚕)、野蚕(天然) |
毛 | 羊毛、カシミア、アルパカ、らくだ、アンゴラ など |
●植物繊維
種類 | 例 |
---|---|
種子毛 | 綿花、カポック |
靭皮繊維 | 苧麻、黄麻、藤、楮、芭蕉、マニラ麻 |
果実繊維 | 椰子(ヤシ) |
その他 | 棕櫚(しゅろ)、藺草(いぐさ) |
※鉱物由来の繊維(例:石綿など)も存在しますが、着物や衣料用途には用いられていないため、本記事では省略しています。
化学繊維の種類
化学繊維にはそれぞれ特長があり、最近では天然繊維との混紡(こんぼう)も多く使われています。
●再生繊維(セルロース系)
パルプなどを原料にしたもの
例:レーヨン、キュプラ、ポリノジック
●半合成繊維
天然由来(セルロースやたんぱく質)に化学処理を加えたもの
例:アセテート、トリアセテート、プロミックス
●合成繊維
石油・天然ガスなどを原料にした完全な人工素材
例:ナイロン、ポリエステル、アクリル、ピニロン(クラレ・ユニチカ)
🔶糸の種類と構造

糸の製法による分類
分類名 | 説明 |
---|---|
製糸 | 生糸を取り出す(絹) |
紡糸 | 化学繊維をつくる製法 |
紡績 | 短繊維を撚って糸にする(綿・羊毛など) |
その他、金糸・銀糸・漆糸などの特殊な装飾糸もあります。
糸の太さの単位
単位 | 説明 |
---|---|
デニール(D) | 長繊維の太さの単位。数値が大きいほど太くなります。 |
番手(S) | 紡績糸の太さの単位。数値が大きいほど細くなります。 |
撚糸(ねんし)について
撚糸とは、糸をねじって強度や風合いを変える工程です。撚りの方向には以下があります:
- S撚り(右撚り):時計回り、S字に見える
- Z撚り(左撚り):反時計回り、Z字に見える
撚りの回数で糸の性質も変わります:
撚りの強さ | 回数の目安(1mあたり) | 特徴 |
---|---|---|
あま撚り | 約300回以下 | 柔らかくふんわり(ガーゼなど) |
並撚り | 約1000回以下 | 一般的な撚り具合 |
強撚り | 約1000回以上 | 張りがありシャリ感が出る糸 |
撚糸の種類
種類 | 説明 |
---|---|
片撚糸 | 単糸1本〜数本を同じ方向に撚ったもの |
諸撚糸 | 下撚り後、さらに数本まとめて再度撚ったもの(駒撚り・壁撚りなど) |
※撚りの分類や撚り回数の目安は、一般財団法人 日本繊維製品品質技術センター の情報を参考にしています。

※糸の撚り方で、風合いや用途が変わります。代表的な「S撚り」「Z撚り」の違いを図で確認しましょう。
精錬(せいれん)とは?
絹の原糸である「生糸」には、フィブロイン(絹の本体)と、それを包むセリシン(たんぱく質)があります。
このセリシンなどの不純物を除く工程を「精錬」といいます。
精錬のタイミングによって、以下の2種類の織物に分かれます:
- 先練織物(さきねりおりもの):糸を精錬してから織る
- 後練織物(あとねりおりもの):織りあげてから精錬する
風合いや光沢を重視する高級織物では、精錬の方法が特に重要です。
🔶まとめ
着物の風合いや質感、機能性を左右するのが「繊維と糸」です。
素材による違いを知ることで、手入れの方法や着用のシーンにも配慮できるようになります。
染織の基本を学びながら、日本の織物文化をもっと深く楽しんでみてくださいね。