10月は、裏地のない単衣(ひとえ)から、裏地のある袷(あわせ)へと衣更えをする季節です。
袷は生地が二重になっているため、重厚感があり、落ち着いたシルエットをつくり出します。
紅葉が色づき始めるこの時期に、秋の深まりを感じさせる装いとしてふさわしい着物です。
ただし近年は気温が高い日も多く、10月でも汗ばむ陽気になることがあります。
その場合は無理をせず、単衣を選んでも問題ありません。
一方で、10月後半のフォーマルな場では袷を着るのが基本的なマナーです。
この記事では、10月の着物コーディネートに合う色合いやおすすめの柄、そして今月のピックアップ柄「菊」についてご紹介します。
色合いのおすすめ
10月の着物には、深みのある落ち着いた色合いがよく合います。
ベージュや茶色、臙脂(えんじ)、朽葉色(くちばいろ)など、秋の自然を思わせる色が人気です。
落ち着いた色味を選んだときは、帯や小物で明るさを加えるのがおすすめです。
たとえば淡い金や銀の帯、明るめの帯揚げを合わせると、全体に華やかさが増してバランスが取れます。
また、暑さの残る日には、単衣の着物に袷の帯を組み合わせることで、見た目だけでも秋らしさを演出できます。

菊や萩の秋草文様をまとい、紅葉の庭園を歩く落ち着きの装い

淡いピンクの付け下げに華やかな袋帯。七五三や秋のお参りにぴったり

素朴な紬に紅葉柄の帯を合わせて、町家路地で楽しむ秋の街歩き
10月におすすめの柄
秋が深まる10月は、植物や自然をモチーフにした文様が多く用いられます。
文様 | 特徴・意味 | 着物での表現 |
---|---|---|
![]() | 長寿・高貴さの象徴。邪気を払うとされ、秋を代表する花。 | 単独でも唐草・流水と組み合わせても映え、格調高い場から小紋まで幅広く用いられる。 |
![]() | 秋の象徴。色づく葉は季節の移ろいを表す。 | 訪問着や小紋、帯に多く描かれ、秋らしさを一目で伝える。 |
![]() | 黄金色の葉は繁栄や長寿のシンボル。 | シンプルな形が意匠化され、小物や帯柄にも多用される。 |
![]() | 木の葉や花、実が秋風に舞い集まる様子を図案化。 | 複数の植物を散りばめ、季節の情緒をにぎやかに表現。 |
![]() | 流水に紅葉を浮かべた文様。古典的な秋の風景。 | 留袖や訪問着など格調ある装いにふさわしい。 |
![]() | 実りの秋を象徴。豊穣のイメージ。 | 帯や小紋に多く、親しみやすい雰囲気を演出。 |
![]() | 秋の豊穣を象徴。米作文化に深く結びつき、稲穂や稲束が意匠化される。 | 実りを祝う吉祥柄として用いられ、家紋にも取り入れられる。 |
![]() | 長寿や夫婦円満の象徴。古くから神聖視され、神の使いとされる。 | 紅葉や秋草と組み合わせ、秋の情景文様として描かれることが多い。 |
![]() | 秋を象徴する渡り鳥。列をなして飛ぶ姿を意匠化。 | 季節感ある古典文様として人気があり、家紋にも用いられる。 |
吹き寄せや竜田川のように、秋の風景を図案化したものは季節感を強く表現でき、遊び心も感じさせてくれます。
ピックアップ柄:菊(きく)
菊は長寿や高貴さの象徴として古くから愛され、10月を代表する花文様です。
菊そのものを描いた「菊花文」、唐草と組み合わせた「菊唐草」、流水に浮かべた「菊水」など、さまざまなバリエーションがあります。
コーディネートでは、深い臙脂や紫の着物に菊柄を合わせると高雅な雰囲気に。
ベージュや茶など落ち着いた色合いの地に菊を添えれば、秋らしい控えめな印象が生まれます。
さらに明るい帯を組み合わせれば、菊の華やかさを引き出し、フォーマルな場にも映えるスタイルになります。
文様 | 特徴・意味 | 着物での表現 |
---|---|---|
![]() | 花びらが長く乱れ咲く様子を描いた柄。華やかで迫力がある。 | 訪問着や小紋に使われ、大胆で豪華な印象を与える。 |
![]() | 花びらを細かく重ね、むじなの毛のように繊細に描いた柄。 | 江戸小紋や浴衣に多く、落ち着いた雰囲気を演出。 |
![]() | 菊の花を丸形にデザインした意匠。吉祥の象徴。 | 単独でも松竹梅や桜の丸と組み合わせても用いられる。 |
![]() | 流水に菊を浮かべた柄。延命長寿を象徴するおめでたい文様。 | 家紋にも用いられ、格式高い場面で使われる。 |
![]() | 菊の花を簡略化した意匠。丸形は饅頭に似ていることからの名。 | 長寿を祝う柄として江戸時代から人気。光琳菊とも呼ばれる。 |
まとめ
10月は単衣から袷へと移り変わる節目の季節です。
深まる秋を感じさせる装いには、落ち着いた色合いや季節の文様がよく映えます。
紅葉や銀杏、吹き寄せ、竜田川など、自然の移ろいを映した柄が多く用いられ、
実りを象徴する稲や木の実、さらには鹿や雁といった動物文様も秋らしさを添えてくれます。
中でも菊は長寿や高貴さを象徴する代表的な花文様で、多彩なバリエーションが着物に華やぎを与えます。
気候に合わせて単衣と袷を柔軟に使い分けつつ、季節の色柄を取り入れることで、10月の着物はより豊かに表情を広げるでしょう。
✿コラム:Fumi’s Kimono Diary ✿
先日、袷の着物をようやく出しました。
朝夕は涼しくなったのに、昼間はまだ暑くて少し迷う日々。
それでも菊柄の帯を締めると、不思議と秋らしい気分になります。
着物は「少し先取り」が粋とされる世界なんです。
紅葉にはまだ早いけれど、銀杏や吹き寄せの小物を合わせて、季節をほんの少し先に歩くような気持ちを楽しんでいます。