着物の衿合わせの基本|右前とTPOマナー

着物の基礎知識

「あれ、着物の衿ってどっちが上だっけ?」

着付けの際に、ふと不安になった経験はありませんか。

実はその小さな迷いが、着物姿全体の印象を大きく左右してしまいます。

特に「右前」と「左前」は、絶対に間違えてはいけない大切なルールです。

この記事では、そんな衿合わせの基本を誰にでも分かりやすく解説します。

着付けの現場で「これが一番覚えやすい」と実感したコツや、シーン別に印象を変えるテクニックもお伝えしますので、ぜひ最後までご覧ください。

右前と左前の意味

少しややこしく感じてしまう「右前」と「左前」。

まずは、それぞれの言葉の意味をしっかり整理しましょう。

  • 右前:相手から見て、側の衿が自分の体の(手前)にくる着方。つまり、左の衿が上に重なります。こちらが正しい着方です。
  • 左前:その逆で、側の衿が自分の体の(手前)にくる着方。つまり、右の衿が上になります。

普段、私たちが着物を着るときは、必ず**「右前」**が正解です。

「でも、どうして『右前』が基本なの?」と不思議に思いますよね。

実はこの習慣、とても歴史が古く、奈良時代に定められた法律(養老律令の中にある「衣服令(えぶくりょう)」という衣服に関する決まり事で定められました)がルーツだと言われています。

これをきっかけに、大陸の文化から影響を受けた「服は右前に着る」という習慣が日本に広まり、やがて日本独自の文化として定着して、現代まで受け継がれているんですね。

左前にしてはいけない理由

右前は奈良時代から続く基本の衿合わせ。現代まで受け継がれています。

では、なぜ「右前」が正解で、「左前」は絶対に避けなければならないのでしょうか?

実はこれ、日本の古くからの文化や、この世とあの世を分ける考え方(死生観)に深く関わっている、とても大切な理由があるんです。

昔から、亡くなった方が旅立ちの際に身につける「死装束(しにしょうぞく)」は、普段とは逆の「左前」で着せる習慣がありました。

これは、生きている人の世界(現世)と、故人が向かう世界(あの世)をはっきりと区別するための、一種のしるしのようなものだったんですね。

ですから、生きている私たちが左前に着てしまうと、「縁起が悪い」とされてしまうんです。

それに、文化的な理由だけではありません。見た目の印象にも、実は大きな違いが出るんですよ。

不思議なもので、見慣れている「右前」と逆にすると、なんだか落ち着きがなく、だらしなく見えてしまうんです。

せっかくの成人式や結婚式で撮った写真を見返したときに、「あれ、なんだか着崩れしてる…?」なんて感じたら、とても残念ですよね。

大切な思い出を最高の形で残すためにも、「左前はNG」としっかり覚えておきましょう。

これさえ守れば、もう着物の着こなしで大きな失敗をすることはありませんよ。

正しい衿合わせの覚え方

右前と左前の意味を知っていても、実際に着物を着ると「あれ、どっちだったっけ?」と迷ってしまう方は多いものです。

特に着物を着る機会が少ないと、衿合わせの感覚はなかなか身につきません。そんなときに役立つ覚え方のコツをご紹介します。


衿元はアルファベットの「y」の形に!

相手から見て衿元がアルファベットの小文字の「y」になるようにすると、自然に右前になります。「あなた(you)から見てy」と覚えると、一度で記憶に残りやすい方法です。


「右手が懐(ふところ)にスッと入る」のが正解!

着物は右利きの人の動きに合わせて作られており、右手で懐に手を入れやすいのが正しい形です。

「あれ?」と迷ったら、実際に右手を入れてみてください。自然に入っていく方が「右前」です。
ちなみに、洋服のボタン(男性のシャツやジャケット)とは合わせ方が逆になるので、「洋服とは逆」と覚えておくのも良い方法ですね。


「華やかな柄が見える方」を上にする

着物の柄は他の人から見て美しく映えるように配置されています。柄が多く華やかな方を外側にすると、自然と正しい衿合わせになります。

特に訪問着や振袖など、豪華な柄の着物で分かりやすい方法です。
「どちらの柄を見せたいかな?」と考えて、華やかな方が上にくるように合わせると、自然と正しい「右前」になりますよ。もし柄で迷ったら、コツ1の「yの形」で最終確認するのが確実です。


衿合わせの注意点

写真の反転に注意
スマホのインカメラは画像が反転することがあります。実際には右前でも、写真では左前に見えてしまうことも。SNSに載せる前に確認するのがおすすめです。

襦袢も浴衣も右前
肌襦袢や長襦袢、そして浴衣もすべて右前で着るのが基本です。和装において「右前」は絶対ルールと覚えておきましょう。

実際に着付け教室や美容院でも、必ず最初に「右前ですよ」と指導されるほど重要なポイントです。

覚えてしまえば迷うことはなくなり、着物を着るときの安心感につながります。

着物の衿のマナーとTPO

洋服でも「今日はシャツの第一ボタンを留める?外す?」とシーンに合わせて考えるように、着物にもTPOに応じた衿元のマナーがあります。

衿合わせを少し工夫するだけで、同じ着物でも印象ががらりと変わります。


フォーマルな場(結婚式や成人式など)

衿元は直角に近い角度で、きちんと揃えるのが基本です。清潔感があり、厳かな雰囲気にふさわしい印象になります。こうすると、キリッとして清潔感があり、背筋が伸びるような凛とした印象になります。


カジュアルな場(友人との食事会など)

衿を少し緩めて角度を浅めにすると、堅苦しすぎずリラックスした雰囲気に。おしゃれ感も出せて、親しみやすい印象になります。


日常で着物を楽しむとき

年齢や体型に合わせて角度を調整すると、全体のバランスがきれいにまとまります。若い方や細身の方は直角に近い衿合わせがすっきり、大人世代やふくよかな方は60度くらい角度をつけると自然でこなれた印象になります。


不思議なもので、衿元の角度は本当にわずかな差で、全体の雰囲気ががらりと変わるんです。

TPOに合わせて角度を意識できるようになると、「この人、着物を着慣れているな」という、ぐっと洗練された印象になりますよ。

例えば、同じ訪問着を着る日でも、衿元をきっちり詰めれば凛として知的な印象に、少し緩めればふんわりと優しい雰囲気に。

こうした細やかな調整で自分らしさを表現できるのが、着物の醍醐味であり、一番楽しいところかもしれませんね。

まとめ

着物の衿合わせについて、大切なポイントを振り返ります。

  • 基本は「右前」であること。
  • 「左前」は故人の装束であるという文化的な背景があること。
  • 衿の角度ひとつで、自分らしい印象を演出できること。

ルールとその背景を知ることで、着こなしはもっと楽しく、自信が持てるものになります。

ぜひ基本を大切に、あなたらしい着物のおしゃれを楽しんでください。

✿コラム:Fumi’s Kimono Diary ✿

先日、友人に着付けをお手伝いしたときのこと。

鏡の前で「どっちが上だったかな?」と迷っている姿を見て、やっぱり衿合わせは最初の大きなハードルだなぁと感じました。

正しく右前に直した瞬間、着姿がぐっと凛として表情まで変わるのを目の当たりにすると、

「衿元ひとつで人の雰囲気ってこんなに違うんだ」とあらためて実感します。

衿合わせは単なるマナーじゃなくて、まるで着物を美しく楽しむための魔法のようなルールだと感じました。

これからも丁寧に伝えていきたいと思います。

タイトルとURLをコピーしました